契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「オレだけ名刺をもらって、自分のを渡し忘れていたから」
「えっ! そのためだけにですか!? お気遣いいただかなくて結構でしたのに」

鈴音は目を大きく見開く。恐縮しつつも、出された名刺を丁重に受け取った。
両手で持った名刺に視線を落とすや否や、絶句する。

(ローレンス本社……副社長!?)

思わずまた大声を出したくなった。

それもそのはず。〝ローレンス〟とは、世界的にも人気な日本の化粧品ブランドで、鈴音の勤めるこの百貨店にも出店している。そんな有名な大企業の副社長と目にしたのだから、言葉を失うのも当然だ。

狐につままれたように、ぽかんと名刺を見続ける。
すると、彼は小さく笑った。

「今日の口紅のほうが、きみに似合っているな。それは、たぶんウチのだろ? 人気の定番色だ」

刹那、びっくりした顔を彼に向ける。

確かに今日は〝ローレンス〟のリップ。昨日、山内が言い当てたものは使いたくなくて、特別な日に使うローレンスの口紅を塗った。

(昨日のあの人にいい当てられたのは不気味だったけれど、今は違う。本当にローレンスの副社長なんだ)

大きな衝撃を受け、瞬きもできない。

「じゃあ、また」

鈴音が言葉を発さぬうちに、彼は颯爽といなくなった。
< 12 / 249 >

この作品をシェア

pagetop