契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 夜十時を過ぎた頃、忍が帰宅してきた。
 鈴音はちょうどシャワーを浴び終えたところで、慌てて道を開ける。

「あっ。お疲れ様です」
「ただいま。これ、ごちそうさま」

 忍は鈴音にランチバッグを手渡した。
 鈴音は軽くなったバッグを実感し、なんとも言えない気恥ずかしい気持ちが湧いてくる。

「ああ……はい……」

 どう反応すべきか考えすぎて、微妙な返しをしてしまった。
 でも、忍は気にする素振りも見せず、リビングへ向かう。

 鈴音は忍の背中を見つめ、昼に思った疑問をまた胸の中で繰り返す。

(いったい忍さんはなにを企んでいるんですか?なんて、聞けない)

 ランチバッグを握り締め、悶々としながら立ち尽くす。すると、忍がくるりと振り返ったので動揺した。

「シャワーはいいって言っていたよな?」
「えっ。あ、はい。傷口を擦らないようにと……」

 背筋をピッと伸ばして答えると、忍は柔らかく目を細めた。

「じゃあ浴びてくる」

 一瞬だったけれど、忍の穏やかな笑顔を見た。
 それは昨日、夕陽を眺めながら並んで歩いたことを彷彿とさせ、鈴音の身体を火照らせた
< 112 / 249 >

この作品をシェア

pagetop