契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 三十分後。鈴音は忍の部屋を訪ねる。

「失礼します」

 ドアを少し開き、中を覗き込むと忍がTシャツを着ていてほっとする。

「急ぎの仕事は終わりましたか?」
「ちょうど今終えた。本当はまだやりたいこともあるが、一応傷もあるし早めに休むようにしようと思って」

 忍はソファで組んでいた長い足を下ろし、立ち上がる。タブレットをソファの上に置いてベッドの脇に腰をかけた。
 その座り方がやはり慎重で、痛みがあるのを物語っている。

「かなり痛みますか? 座っているだけでも辛いと思うので……本当にすみません」

 すぐに駆け寄るも、添えていいものかわからない手が宙を彷徨う。

「いて……。なんか情けねぇな」
「そんなことないです!」

 痛みに顔を歪めて苦笑した直後、鈴音が即答するものだから忍は目を点にした。
 忍の虚を突かれたような顔を見て、鈴音はパッと視線を逸らす。

「……薬塗りました?」
「いや」

 なにかがおかしい。鈴音は自分自身に対して思う。
 自分のことなのに、コントロールがきかなくなりそうな感情がときどき顔を覗かせる。

 鈴音はなんだか落ち着かない気持ちを紛らわすため、平静を装って薬を差し出した。

「あ。じゃあ、これを」
「鈴音がやって」
「えっ?」

 忍が自分で薬を塗れば少し時間を稼げるかと思っていたのに、間を置くどころか逆に大変なことを頼まれてしまう。

「オレ、こういうの雑だから」

 鈴音が目を白黒させていると、忍はそう付け足した。

 鈴音の返事も聞かず、忍は目の前でTシャツを脱ぐ。痛みを堪える短い声がして、思わず一度逸らした視線を戻した。

「だっ、大丈夫ですか……?」
「やっぱり曲げ伸ばしはいつも通りにはいかないな」

 忍は痛みに顔を歪めたまま、小さく笑う。鈴音はハラハラと心配するも、引き締まった身体を前に、どうしても目線が定まらない。
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