契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 数十分後。鈴音はローレンス社に着くとすぐに受付に行き、前回同様役員専用エレベーターに乗せてもらった。

 最上階に着き、エレベーターのドアが開いた瞬間前のめりで降りようとした矢先、前方に人がいて踏みとどまった。

「あっ……!」

 よりにもよって、油断したところに出くわしたのは光吉だった。
 鈴音は驚倒し、言葉が出てこない。

 困惑した頭で懸命に第一声を考えていると、口火を切ったのは光吉の横にいた男性だった。

「あの雑誌の……! では、こちらの女性が副社長の!」

 ひょろりとした体型の男性は、鈴音を見てなぜか驚いている。
 鈴音もその男性同様、目を剥いて、ゆっくりと首を傾げていく。

 すると、今度は光吉が口を開いた。

「そうだ。私もこの前忍に紹介されたんだよ。鈴音さんと言ったね? そんなに慌ててどうしたんだい?」
「し、失礼いたしました。先日はありがとうございます。本日は、忍さんに急用がありまして……」

 鈴音は光吉に委縮しながらも、なんとか目を見て受け答えする。

 会うのはこれで三度目。
 回数的にも当然まだ慣れるはずはないけれど、鈴音は光吉が苦手だ。

 それは社長という肩書を持つ相手だからということだけではなく、彼のつかみどころのないような雰囲気がどうも落ち着かない。

 表向きは友好的なのだが、本心が別にある気がして構えてしまう。

 鈴音はそんな心情を悟られないように動揺を押し隠すが、光吉が「ふっ」と笑いを零しただけで硬直する。

「急用ねえ」

 口角を上げてつぶやく光吉を黙って見ていた。心臓はドクドクと脈打ち、いやな汗がじわりと滲む。

(受け答えがまずかった……? でも、ここで出くわしてしまった以上、ほかにそれらしい理由もないし)

 念のため、忍の忘れ物を届けに来たとは説明しなかったものの、自分が会社にやってきたことで忍の印象が悪くなっているのかもしれないと心配する。

 しかし、もしそうだってあったとしても、もう遅い。
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