契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「鈴音のおかげで時間に余裕ができた。柳多、悪いが彼女を送って行ってくれないか」

 忍が驚く発言をしたので、鈴音は吃驚して首を何度も横に振った。

「いえ、大丈夫です! 今日は予定もないですし、ついでにどこかぶらっとして戻りますから」

 光吉にも宣言した通り、早くこの場から立ち去ろうとしたときに、鈴音のお腹が見事に鳴った。
 明らかに全員に聞こえた音に、鈴音は汗顔の至りだ。

 赤い顔を隠すように俯いた鈴音をジッと見て、忍が口を開く。

「朝食は?」
「あ……トーストは食べてきたんですけれど」

 鈴音はちらりと一瞬忍と目を合わせるのが精いっぱいで、すぐにまた俯いた。

「柳多。休憩には少し早いが、鈴音とランチに行ってくれ」

 自分のつま先を見ていたが、忍の言葉に驚いて咄嗟に顔が上がる。

「えっ。いや! 私ひとりで適当に……」
「予定はないんですよね? では、ぜひ私とご一緒してくださいますか?」

 鈴音が遠慮するのを無視して、柳多が一歩前に出て微笑みかける。

 『ぜひ一緒に』と言われてしまえば、さっき予定はないと言った手前断ることができなくなる。

「……はい」

 小さな声で渋々頷くと、柳多は満足そうに目を細め、忍を見た。

「では、少々準備だけして参ります。すぐにこちらに戻ります」

 柳多が部屋から一時退室すると、忍は革張りの椅子から立ち上がる。
 おもむろに瞼を伏せて言う。
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