契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 鈴音はローレンスのカウンターを後にしながら忍の言葉を思い出していた。

(忍さんが言った通り、ローレンスのBAさんは素晴らしいな。私も見習わなきゃ)

 店を去った後に心が温かくなるのは、接客が温かかったから。
 自分もそんな販売員でありたいと思わされた。

 なんとなく軽くなった足どりでエスカレーターに乗り、心に決めた。

(今度、ローレンスへコスメを買いに行こう)

 自然と上がっている口角をエスカレーター横の鏡で気づく。
 するとなぜだかすごく、自分がいつも立っている職場に行きたくなった。

 鈴音がチェルヴィーノが入っている五階を目指し、エスカレーターを降りると、携帯が鳴った。
 慣れたフロアを歩き進めながら、電話に出る。

「もしもし。お疲れ様です」

 少し高揚した気持ちを抑えるように、落ち着いた声を出す。

『今終わった。出先から直接向かうけど、今どこにいる?』

 スピーカーからは、未だに慣れない大人の色気を感じさせる忍の声が聞こえてきた。
 鈴音は壁際で立ち止まり、目と鼻の先にあるチェルヴィーノを見ながら答える。

「今はうちの百貨店にいて、チェルヴィーノに立ち寄ろうかと思っていたところで……」
『わかった。じゃあ、そこへ行く。すぐ着くと思うから』
「すみません。わかりました。お気をつけて」

 通話を終えて、携帯に目を落とす。

(もうそんな時間になっていたんだ。いったいどこへ行くんだろう)

 時間を見れば、もう五時を過ぎていた。
 宣言通り、仕事を終わらせて連絡をくれたのだろうが、本当は大変だったのではないかなと思う。

(だって、かなり仕事が山積みみたいだったし)

 それなのに、なぜ無理をしてまで今日時間を作ってくれたのかよくわからない。
 大事なものを見つけて届けた礼と言っても、そんなものは不要なのにと鈴音は息を吐いた。

 そこに、突然「鈴音!?」と大きく驚いた声を耳にして顔を上げる。
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