契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 横から割り込んできた声に、鈴音と梨々花は肩をびくっと震わせる。
 鈴音は瞬時に携帯を胸に押し当て、顔を上げた。

「さ、佐々原さ……」
「オレも休憩中に雑誌見て……服装とか雰囲気とか似てるなあって……」

 白を切るつもりでいたが、険しい顔をしている佐々原を前にすると言葉が出ない。

 梨々花もなにか言ってあげたかったのだが、佐々原とは挨拶程度しかしたことがないし、自分の方が立場は下ということもあって言いあぐねる。
 すると、佐々原が梨々花を見た。

「ごめん。彼女とふたりにしてくれる?」

 そう言われてしまうと、梨々花はその場から離れるしかなかった。
 無言で鈴音から携帯を受け取り、『ごめん』と目くばせをし、後ろ髪を引かれる思いで売り場へ戻っていった。

 鈴音は佐々原とふたりきりになって、しどろもどろとする。

「……あの、これは」
「偽装結婚ってなに? もしかして、無理やり付き合わされてるの? なにか弱味でも握られて?」
「ちっ、違います!」
「おかしいと思っていたんだ。そういう雰囲気まったくなかったのに、急に結婚の話を聞かされたから」

 心底違うと思って否定したけれど、佐々原の先入観を覆すことはできない。

 鈴音は、こんな突拍子もないことをしている自分が、上司にどういう目でみられるかという焦りはまるでなかった。
 そんなことよりも、偽装結婚の事実が広まったあと、忍が受ける打撃を想像して辛くなる。

(私の不注意でこんなことになるなんて)

 瞳を揺らし、どうしたら偽装結婚ではないと納得させられるか懸命に考える。
 でも、焦れば焦るほどいい案は浮かばず、不穏な面持ちを見せていた。

 それを佐々原は見事に誤解し、正義感に満ちた眼差しで訴える。

「ダメだって、そんなこと!」

 今にも肩を掴まれ、身体を揺さぶられそうなほどだ。

 鈴音は委縮して肩を竦め、瞼を閉じる。
 責められている感覚に動転し、為す術なく身体を強張らせた、そのときだった。
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