契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「おはよう」
「おはようございます。佐々原さん、いつも早いですね」
「あ、気にしないでね。少し早めに売り場に入った方が、仕事モードになれるってだけだから」

佐々原はガラスケースから革製品を取り出しては、丁寧に磨いてきっちり並べる。プライスキューブも同様に真っ直ぐ置き、思い出したようにべつの引き出しを開けた。

「山崎さん、これあげるよ」
「インク? いいんですか?」
「万年筆使ってるって言ってたよね? サンプルで何個か送られてきたものだから」
「わぁ。ありがとうございます! うれしい」

佐々原が鈴音に渡したのは、手のひらに乗る大きさの箱。
中身はチェルヴィーノブランドの万年筆用インク。

鈴音が勤めるブランドには、万年筆やボールペンも人気商品だ。革製品と違い、筆記具は女性にも支持が得られていてよく売れる。

鈴音も初めは自分の店のものを一本……と思って購入したのだが、いつしかチェルヴィーノの筆記具に魅入られた。

新商品のインクを笑顔で受け取る鈴音を、佐々原は満足そうに見つめる。

「あ、でも内緒ね」

佐々原が人差し指を立て、片目を瞑る。鈴音は小さく頷くと、そっと私物バッグのなかにしまった。
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