契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
声を漏らしたのは鈴音ではない。忍だ。

酷いことを言った、とキスを躊躇っていたところに、鈴音の方から口づけられた。

鈴音は忍の頭に手を回し、唇を押し付けたまま。お世辞にも上手いとは言えない不器用なキスなのに、忍は胸を熱くさせていた。

鈴音から口を離すと、忍を見もせず視線を落とした。

金は受け取っていない。けれど、忍の中では受け取ったことになっている。それを許したのは鈴音自身だ。

それなのに、やはり 契約的な (そういう) 目でしか見られていなかったのだと痛感し、胸が引きちぎられそうになる。

違反を犯しているのは自分。忍はなにも間違ったことは言っていない。
単に自分が限界を迎えただけ。自らキスしてしまうくらいに。

たとえ、今ここで『本当はお金を受け取っていない』と言ったって意味がない。それを言えば、まるで初めから彼のそばにいたかっただけだと思われるかもしれないから。

(どちらにせよ契約違反。私は彼を好きになってしまった)

鈴音は勢いよく忍の胸を突き放し、ソファから立ち上がって走り出す。

「鈴音!」

豪華なドレスが邪魔をしてうまく走れない。またも忍に捕まった腕を、全力で振り払う。

「……放してっ!」

そこにドアノブが回る音が聞こえ、ふたり同時にハッ顔を向ける。忍は反射的に手を放した。
ドアが小さく音を上げて開く。

「お待たせいたしました。先ほどご覧になっていたカラードレスを一着……どうかなさいましたか?」

 スタッフがふたりの顔を見て窺うと、忍が瞬時に対応する。
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