契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「妻が少し体調が優れないようで……申し訳ないですが、衣装合わせは次の機会にさせてください」
「まあ! 確かに少し顔色が……。かしこまりました、ただいますぐにお着替えのお手伝いをいたします」

スタッフは手にしていたドレスを掛け、急いで鈴音の手を取りカーテンの奥へ移動した。

「ちょうどご新郎様が来てくださってよかったですね」

ドレスを脱がすスタッフが小声で言うが、鈴音はなにも返せず俯くまま。

「黒瀧様はスケジュールもタイトで大変ですが、あまりご無理されませんよう……」
「……すみません」

他人の気遣いが余計に胸を痛める。一刻も早くドレスを脱ぎたかったが、着替え終わってしまうとまた忍と顔を合わせなければならない。

鈴音が追い詰められていても、着々と着替えは進んでついにカーテンが開けられた。

忍の射るような視線を感じ、おずおずと顔を上げる。
そのとき、忍の携帯が鳴り始めた。忍から視線を外したことで、鈴音はほっと力が抜ける。

「はい。……わかってる。すぐ戻る」

きっと相手は柳多だろうと予想する。
すると、すぐに通話を終え、忍はスタッフに頭を下げた。

「申し訳ない。仕事に戻る時間になってしまったので、妻をタクシーまでお願いします」
「左様でございますか。承知いたしました」

今後顔を合わせぬわけにはいかないが、とりあえず今ひとときでも離れられる。

鈴音が柳多の呼び出しに感謝しているところに、忍が歩み寄っていく。
目の前にやってきた忍が不意に「鈴音」と呼ぶから、思わず肩を上げる。

「家でゆっくり休め」

忍の声色はなんとも捉えがたいものだった。
怒りは感じられない。そうかといって、単純に身体を心配しているわけでもないだろう。

鈴音は「はい」と小さく呟き、忍の背中を見送った。
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