契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
スタッフの付き添いでタクシーに乗り込み、ひとりで帰る。
しかし、鈴音は真っ直ぐ忍のマンションに戻る気にはなれず、途中でタクシーを降りると遠回りをし、家に着いたのは夕方七時頃だった。

鈴音はすぐさま自分の部屋に籠ると、現実を忘れるために眠りに就いた。

目を覚ますと窓の外はまだ暗く、朝ではないことがすぐにわかる。
なにも見えない中、手探りで目覚まし時計を探し、ライトを点灯させた。

「一時……」

時刻を確認した鈴音は、壁に手を付き、ふらついた足どりで廊下を行く。
電気を点けたのはキッチンだけ。それでも、充分眩しくて目を細めた。

今になって、自分の身体が汗ばんでいることに不快感を抱く。
帰宅した直後はそんなことを感じる暇もなく寝てしまった。

寝ぼけ眼で着替えとタオルを持って、バスルームに入る。数分後、シャワーを浴びて目が覚めただけで気分はサッパリしない。

寝ているであろう忍を起こさぬよう、足音に気をつけて脱衣所を出たときに、ふっと玄関に目が留まった。
見ると、自分の靴しかない。鈴音は、てっきり忍は帰宅して自室で休んでいるものだと思っていた。

部屋へ向かう際、奥に見える忍の寝室のドアを数秒見つめた。

(もう日付変わってるのに……なにかあったのかな)

心配に思いながら部屋に入ったのと同時に着信音が短く音を上げた。

瞬間的に、このメールが忍かもしれないと頭を過ると即座に携帯へ手を伸ばす。急く気持ちでホームボタンを押すと、メールの主は梨々花だった。

一気に脱力し、項垂れる。

「なにを振り回されているの……?」

鈴音は携帯を両手で握りしめ、真っ暗な室内でぽつりと零す。

その場に座り込み、放心した。ちょうど手もとにあったカバンに視線を移すと、手帳が見えた。
たったひとことの日記すらも、今日は書けない。

……そのとき。
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