契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「先に伝えていた話のことだけど」
「わかっています。昨日のことは忘れてください。ちょっと慣れないことが続いて弱音を吐いてしまったんです」

鈴音はまるで見計らっていたかのように、即座に発する。
事実、鈴音は忍の『話』を細部まで聞くのが怖くて、それを聞かなくてもいいように言葉を被せた。

「いや……」
「大丈夫です。約束はきちんと守りますから」

そして、自分に言い聞かせるようにしっかりと答える。

結婚してしまった以上、家を出ても解決しない。

一瞬、決心が揺らいだけれど、ちゃんとすべきことを全うし、けじめつけてから籍を抜かなければと気持ちを戒める。

鈴音の心を決めた表情を目の当たりにし、忍はなにも言えなくなった。

約束が守られるなら、あとはなにも言うことはない。それ以上のことを求められるわけがない。

深入りされたくなくて選んだ相手が鈴音だった。
それなのに、今は自分が深入りしてしまいそうになる。

忍は奥底にある欲望をグッと堪え、ようやく箸を手にした。
なによりも先に鯖味噌を口に運ぶ。その行動に、鈴音は思わず凝視した。

「あの……本当に無理しないで」
「あれ?」

突然、忍が不思議そうな声を上げた。鈴音が目を丸くしていると、その間に忍はまたひと箸つける。

「……平気だ。あの独特な臭みがない」
「え? あ、煮物だからですかね。お味噌と生姜も使ってますし……」

その後も忍は自分のことなのに不思議そうに箸を進め、すべて平らげた。
鈴音はにこりと笑う。

「すっかり体調が戻ったようで、よかったです」
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