契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「すみません。戸籍謄本ではなく、住民票にしてください」

そうして新たに申請書を書き直し、住民票を待つ。

鈴音が忍のマンションに引っ越す際、住民票を移動したのは自分だ。
柳多が手続きするような話が上がっていたが、自分のことだからと断った。

あのときは、忍に対して今のような感情を抱いていなかったため、迷わず〝同居人〟ではなく〝世帯主〟を選択した。

それでも、もし婚姻届けが受理されていたのなら、記載されている氏は〝黒瀧〟に変わっているはず。

ついに番号を呼ばれ、住民票を受け取った瞬間、時が止まった。

【世帯主 山崎 鈴音】

確かにそう記載されている。

(――やっぱり!)

予感は的中だった。忍と鈴音の間には、婚姻契約は結ばれていない。
突きつけられた事実に、少しの間衝撃を受ける。

フロアの真ん中に立ち止まったまま、茫然と自分の名前を見つめ続けていた。

胸にぽっかりと穴が開いたように虚しくなっている理由は、法律上だけでも忍の妻になっていると思っていたから。

馬鹿みたいなことだが、鈴音にとってその繋がりだけで精神を保たせていた。
行き場のない思いを、妻という肩書きで押し込めていた。

鈴音は住民票を握る手に力を込めると、俯かせていた顔を上げる。

まっすぐ前を見て踏み出す鈴音は、ふっきれた瞳をしていた。
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