契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「ああ。ですが、副社長は少々スケジュールが詰まっていまして。私にでも事前に連絡いただければ……」
「まあ。それは、余計な事件や怪我などがあったから?」

柳多の余所行きの返しに、星羅は間髪容れずに言った。
予想だにしていない言葉に、柳多は戸惑う。

「え?」
「昨日お父様から聞いたの。この間、忍さんが大変な目に遭ったって」

星羅は長い睫毛を伏せ、高級そうなパンプスで絨毯の上をゆっくり歩く。
柳多の前を横切り、鈴音の目前で足を止めると、鋭い視線を向けた。

「傷害事件はあなたが忍さんに関わらなければ起きなかったことでしょう? なんで彼が危険に晒されなければならないの?」

星羅のストレートな攻撃内容は、鈴音には大打撃だ。

それはずっと自身でも後悔し、心を痛めていたこと。

さすがに一瞬、怯んだ表情を見せてしまう。星羅はそこに追い打ちをかけるよう、辛辣な言葉を投げつける。

「本当の妻でもなく、彼に愛されてもいないくせに!」

星羅の罵倒が胸に突き刺さる。
だが、逆に他人にはっきり口にされたことで、鈴音は自分の気持ちに踏ん切りをつけた。

星羅の喉元から、視線を少しずつ上げていく。マスカラで黒々した睫毛の瞳まで辿り着き、まっすぐ見据える。

星羅は鈴音の荘重な雰囲気に目を奪われ、息を呑んだ。
水を打ったように静まり返るホールで、鈴音が口を開く。

「あなたが言うことは正しいです。怪我は私のせいだし、妻なんかじゃない」
「だ……だったら、早く忍さんの前から消えてよ!」

どうにか発言するも、鈴音の堂々とした空気に押され、さっきまでような覇気がなくなってしまった。
星羅はおどおどとしながらも鈴音を睨みつける。

「な、なによ」

自分から近づいたのに、鈴音の異様なオーラに気圧されて後退っていく。
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