契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
忍と目的が一緒ということから、柳多も光吉を嫌っているのだろうと予想はしていた。
しかし、その理由まではわからないことだったから、やっと今腑に落ちた。

(それにしても、そのためとはいえ、憎い相手に仕えるってどんな精神力なの)

考えてもみれば、光吉から一番近いところで何年も勤めている。
本当の気持ちを隠し、信頼を得ながら毎日過ごすことを想像するだけで疲弊した。

「吸収合併なんてよくある話だ。ただ、そのあとの扱いがひどかったよ。開発とはまったく関係のない部署の窓際に配置され、今では海外で工場職員の面倒をみている」

嘲笑して、淡々と言葉を紡いでいく。
柳多は乾いた笑いと共に、遠くを見つめた。

「もう何年も、笑いながら仕事の話をする父を見ていない」

鈴音はふと忍の言葉を思い出す。

意気投合し、兄貴みたいな感じ、と話していたのはその通りだと感じた。
目の前の柳多は、どことなく忍に似ている。

燻った心をうまく整理できぬまま、苦しみもがいて。
それでも必死に前を向きたいと願っている……ふたりはそんな葛藤の中にいる気がした。

「だから、あいつを引きずりおろせば……そして忍が上に立てば、きっと変わる。なのに忍が急に……」

柳多の目の色が変わる。それに気づいた鈴音は、真っ直ぐぶつかっていく。

「柳多さんが婚姻届けを出さなかったのは、ほかに適任者がいると思っていたから?」

鋭い指摘に、柳多は思わず顔を上げた。
鈴音は変わらず柳多から視線を逸らさない。
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