契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
忍が言ったように、鈴音の家族は母だけ。しかし、その母も鈴音が自立をした数年前に、いい相手に巡り合って再婚している。さらに再婚相手との間に子どもも生まれ、新しい家庭を築いているのだ。

母にも義父にも疎まれているわけではないのだが、鈴音は性格的に遠慮がちなのもあって、ひとりで生活することを選んだ。

母もひとりでいる鈴音のことを、気に掛けている。もしも、結婚が決まったと報告すれば、おそらく両手放しで喜ぶだろう。同時に、安心もするはず。

それらを総合すると、確かに忍が言うように、結婚はしやすい環境下にいるのかもしれない。

(だからって、やっぱりこんなの変だよ。理由がわからないし)

鈴音は急な展開に疑問がいっぱいだ。
なぜ、結婚をしたいのか。それは、どうして自分なのか。

(だいたい、黒瀧さんなら、引く手あまた……相手がいなくて困っているだなんてことはないでしょう)

心の中で呟き、視線でその心情を訴える。すると、忍は真っ直ぐ鈴音を見たまま答えた。

「来月中に結婚をしなければ、オレの野望がダメになる」
「や、野望? あの、仰っている意味が」
「今、オレの父が会社のトップに立っている。次はオレだ。でも、そうなるためには、遅くても三十四歳で結婚すること、と条件をつけられた」

訝し気な顔で聞き返した言葉尻も被されて、鈴音は忍の説明に目を剥いた。

(まさか、次期社長の条件を満たすためだけに?)

混乱する思考の鈴音を置いてけぼりにするように、忍は饒舌になる。

「会社が会社だ。化粧品メーカーの社長が、パーティーに特定の女も連れずに顔を出すのが恥らしい。まぁでも、それよりも跡継ぎのことが心配なんだろうけど。同族経営がいちばん生き残りやすいとでも考えてるんだろ」

嘲笑う姿を見れば、父である現社長を良くは思っていないのだということはわかった。
ただ、やはり鈴音は腑に落ちない。
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