契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「それはわかりましたけれど、なぜ私なんですか」

忍ほどの男ならば、もっとほかに適した女性はいるだろう。自分ではあまりに立場が違いすぎる、と鈴音は膝の上で手を握る。

緊張で手に汗を握っている鈴音とは逆に、忍はドアに肘を置き、頬杖をついてリラックスする。そして、フロントガラスの向こうを見ながら言った。

「昨日、きみはオレの素性を知って、動揺はしていたようだが目の色を変えなかった。大抵の女は『ローレンスの副社長』と口にするだけで、目を輝かせて近寄ってくる。そういう女は論外だし、親父が用意するような箱入り娘も御免だ」

そういえば似たようなことを梨々花も言っていたな、と思い出す。
忍と出会った女なら、どうにかして近づきたいと思う、というようなことを。

選べるほど相手がいても、グイグイとくる女性が嫌だというのなら候補数は激減するだろうと、鈴音は納得する。

「だ、だけど、普通の女の子なら、探せばいくらでもいるんじゃ……」

ルックスやステータスに興味のない女子だって、たくさんいるはず。
鈴音はそう思って抗議したが、忍にあえなく却下される。

「探す時間がもうない。それに、迂闊に惚れられたら困る。その点、さっきも確認したが、きみは大丈夫だろ?」

忍は飄々として傾けた顔はそのまま、鈴音に目だけ向ける。

(『惚れられたら』だなんて、すごい自信……。でも、確かにあまりに揃いすぎている人だから、自分で言っても納得せざるを得ないかな)

嫌味にも聞こえないような完璧な男だ。ただ、ちょっと自信過剰ではないかと思う。すると、鈴音はハッとして尋ねた。

「いや、でも、大丈夫って、どうして言い切れるんですか? 私だって、好きになるかもしれませんよ?」

忍とは置かれていた環境が天と地の差。まったく別次元の存在だ。
きっと、仮に結婚したところで、こんな面倒な背景を持つ男を好きになることなんてない。

そう思ってはいたが、この場を切り抜けるためには、自分もほかの女性と同様かもしれないと言うのが効果的かもしれないと踏んだ。

しかし、忍は慌てる様子も諦める素振りも見せずに即答する。
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