契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「礼をする、と」

鈴音は目を大きく見開き、数秒止まる。
それから、動揺のあまり震える声で反論した。

「だからって! 結婚してくれと言われるだなんて、普通考えると思いますか?」
「考えていなくても、たった今、話はした。今から十分考えられる」
「なっ……!」

いくら抵抗しようとも、忍は慌てるどころか顔色ひとつ変えず、さらりとかわし、押していく。
鈴音は息を吸うと、形勢を整え、強い意思を持って言い放つ。

「ほかのことなら、きちんとお礼します。結婚の件は、こんな急には無理です」

ハッキリ意思を伝えると、シートベルトを外した。ドアを開けようと、レバーに手をかける。
すると、一瞬で右腕を掴まれ、引き寄せられた。

力強い手に驚き、鈴音は声を失ったまま忍を見つめた。

「こんなところで降りてどうする? 家まで送るから乗っていろ」

いまだに掴まれている腕の部分を中心に、身体が熱くなる。早鐘を打つ心臓に、無意識に涙目になってしまっていた。

「だ、大丈夫ですから」
「この間の男は、どうなった?」

どうにか口を開いたかと思えば、厳しい現実を突き付けられる。
鈴音が閉口しても、忍は腕を解放することをせずに続けた。

「ああいう奴には、早めにわからせた方がいい。〝形式上〟でも、パートナーがいるとなれば、早々変な手出しはしてこれないだろう。それに、きみも安心できる」

それを聞いた鈴音は、瞳を揺るがす。

「脅し……ですか?」

大きな黒目に映る忍は真剣な表情。
驚いて瞬きも忘れている鈴音を真っ直ぐ見つめ、そっと腕を放した。

「まさか。忠告と提案だ」

しれっと答え、ギアに手を乗せる。

「とりあえず、家までは送って行くから。シートベルトを締めろ」

(……信じられない)

忍の横顔を見て、改めて思う。
次の瞬間、グン、と重力に引っ張られた。鈴音は、ハッとしてシートベルトを装着した。

それを横目で確認した忍は、さらに深くアクセルを踏んだ。
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