契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
廊下はムダのない設計で、すぐにリビングに辿り着く。足を踏み入れると、一面の窓から夜景が一望できた。

想像を絶するリビングは、だいたい広さは三十畳あるかといったところ。黒い革張りのソファや、ガラスのローテーブル、壁に設置された大きなテレビなど、まるでモデルルームのよう。

「適当に座っていろ。すぐ戻る」
「えっ」

忍はそう言い残すなり、リビングから颯爽と出ていってしまった。

(適当に……って言われても)

鈴音は静かにリビング見回す。広さは十分すぎるほどで、座るところなどいくらでもある。しかし、ソファには恐れ多くて座れないし、床に腰を下ろすのもどうなのかと、落ち着く場所を見つけることができない。

結局、壁際にひっそりと立ったまま忍を待つ。

「鈴音?」

リビングに戻ってきた忍は、ソファに鈴音の姿が見当たらなくて名前を呼んだ。軽く部屋を見渡した際に、ドアの近くに立っている鈴音と視線がぶつかり目を丸くする。

「そこでなにしてるんだ? ソファがあるだろう」
「あ、いえ……。なんだか、恐れ多くて」
「本当に変わっているな、鈴音は」

ため息交じりの呆れ声が降ってきて、鈴音は肩を窄めた。やはり、忍の妻を演じるなんて到底無理だろうと困りかけた、そのとき。

「きゃあっ!」

突然身体がふわりと宙に浮き、視界が一気に高くなる。鈴音は、忍にひょいと肩に担がれていた。
忍はそのままリビングを歩き進め、鈴音をソファにトサッと下ろす。そして、鈴音の顔を覗き込んだ。

「ソファというものは、座るためにある。わかったか?」

身体に触れられたことも、担がれたことも、近距離で見つめられたことも、全部、鈴音の理性を崩す。

混乱状態で、ただ必死に首を縦に振る鈴音の顔は真っ赤だ。
しかし、鈴音はすぐに俯いたためか、忍はそれに気づかず隣に座った。

車内よりも距離が近い。

鈴音は忍を見るどころか、指一本も動かすことができないくらいに緊張していた。
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