契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「まぁ、こんなものか」

忍は鈴音の顔をまじまじと見て言った。その言葉が、やけに悲しくなる。
同時に、ずっと抱えてきた感情が我慢できなくなり、とうとう切り出した。

「やっぱり、私なんかじゃ、あなたの役には立てないと思うんです」

忍に釣り合うような美人もいるはずだし、教養を持つ女性だってほかにいる。
忍が住むマンションに訪れ、自分は場違いだというのをひしひしと感じた。

忍は、俯いたまま一向に顔を上げようとしない鈴音の両肩に、大きな手を乗せる。

「ほかの人間がなにを言っても構わない。オレは、きみがいいと決めた」
「……じゃあ、婚約だけして、あとは事実婚というか……そう思わせるだけで十分なんじゃないんですか? わざわざ本当に手続きまでしなくても」
「そんなのすぐにバレるだろう。オレがいる会社は父もいるんだ。総務に確認されたら一発だ」

忍はことごとく鈴音の提案を却下する。

実際は、いまさら戸籍が傷つくなどということは気にしていない。どうせ結婚願望なんかないし、結婚するかどうかもわからない自分の戸籍に価値を見出していないからだ。

ただ、婚姻届けを提出……となると、自分が勤める会社に報告しなければならないわけで。

鈴音は、もしも上司や同僚に結婚相手について知られたときに、自分と忍があまりに別世界だと思われるのだろうと想像してしまった。

(それに、お祝いの言葉を貰うことを想像するだけで心が痛くなる)

心を閉ざすように黙り込んでしまった鈴音に、忍はとんでもないことを訊く。
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