契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
恭しく下げられた頭は、まだそのまま。
鈴音は、当然そんな扱いに慣れていないため、落ち着かない。そわそわしながらペコッと礼をして言った。

「じゃあ、私はこれで」
「――あの」

柳多を横切り、彼の姿が視界からなくなったときだった。背中越しに呼び止められ、すぐに振り向いた。

見ると、柳多があまりにも真剣な顔つきをしていて、思わず息を呑んだ。

「副社長の好意を、こんなふうに突き返す女性はいません」

そして、薄く口が開いたかと思えば、責められているのかと感じるようなことを言われ、鈴音は顔を僅かに顰めた。

「だから、なんですか?」
「きっと、彼も驚くことでしょう」

鈴音が不機嫌になったことは明らかなのに、柳多は眉ひとつ動かさず、淡々と答えた。そして、さらに続ける。

「彼も彼なりに自尊心があると思いますので、このお話はここでもう終わりにしていただいても?」

(要するに、彼のプライドを守れってことね)

柳多の要望に呆れながらも、鈴音は反抗することなく承諾した。

「べつに、私だって、こんな話二度としたくないです」

面倒なことは誰だって避けたい。
ただでさえ、これから色々とあるのが容易に想像できるのだから、こんなところで長い時間揉めるなんてムダだ。

鈴音がそんな気持ちで答えたら、柳多はホッとしたように表情を緩ませた。

「よかった。副社長のフォローは、私にお任せください」

彼は柔らかな笑顔と共に、もう一度礼をする。

「それじゃあ……」
「行ってらっしゃいませ」

鈴音は見送られながら、柳多の今さっき安堵した顔を思い返す。
あの瞬間、柳多の忍に対しての忠誠心や、彼を大事に思っているような心が見えた気がした。
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