契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
そして、あっという間に翌日土曜はやってくる。
鈴音は手帳に新しいインクを入れた万年筆で書き記していた。

【黒瀧さんのお父さんと会食】

その文字をそっと指で撫で、きゅっと唇を結ぶ。
手帳をパタン!と閉じ、慣れない靴に足を通した。

終業中も、圧倒的に早く過ぎ去る感覚に、鈴音は自分がかなり緊張し、気が重くなっているのだとわかった。

「山崎さん、なんかあった?」

閉店した後、売り場で佐々原が鈴音に話しかける。鈴音は、この後のことに意識を集中させていたせいもあり、びっくりして肩を上げた。

「えっ? ど、どうしてですか?」
「いや……なんか、鬼気迫るっていうか……今日はずっと難しい顔してるから」

鼓動が速まる。けれど、それに気づかれてはいけないと鈴音は表情を作る。

(私の抱えている事情なんて、これ以上誰にも言えない!)

「す、すみません! 接客業なのに、そんな顔していたなんて」
「ううん。大丈夫?」

佐々原が心配そうに鈴音の顔を覗き込む。しかし、鈴音は隙を見せず、笑顔で終始距離を取って対応した。

「はい。あ、じゃあ、お先に失礼します」

詮索されないようにごく自然に話を終わらせ、なるべくいつも通りに振る舞って佐々原が残る売り場を後にした。
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