契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「……忍さん、とは」
忍が代わりに適当なエピソードでも言おうとした瞬間、鈴音が先に口火を切った。
忍は驚いた目で鈴音を見る。
「私が困っているときに現れて、何度も助けてくれたんです。……運命を感じました」
「ほう。それはまた、すごい美談だな。無駄を嫌う忍が何度も駆けつけるほど、鈴音さんに夢中だったわけだ」
「いえ……。きっと、私が危なっかしくて放っておけなくなっただけだと思います。忍さんは、優しい方ですから」
鈴音は僅かに目を伏せ、口元を緩ませながらそう語る。
光吉はさらに鈴音へ問いかけた。
「それで? 鈴音さんのご実家はなにをなさっているのかな?」
「実家……ですか?」
つい今しがた危機を乗り越えたばかりなのに、一難去ってまた一難。
鈴音は光吉の質問に、正直に答えるべきか躊躇する。しかし、そこは忍がすぐに対応した。
「彼女は、日本でも人気の海外メーカー、チェルヴィーノ日本支店社長の姪なんだ」
鈴音は、忍の口からスラスラと零れ出る言葉に呆気に取られる。
(チェルヴィーノでは働いているけれど、社長の姪だなんて!)
あまりに大きな嘘に、鈴音は開いた口が塞がらない。それに構わず、忍は会話を続ける。
「チェルヴィーノ? イタリアのか?」
「はい。彼女も東雲百貨店に入っている直営店で勤務しています」
「働いているのか。それは感心だ」
鈴音は、もっと綿密に〝設定〟を聞いておけばよかったと思ったが、それ自体が忍にとって不要だったのだと理解した。
(きっと、事前にこのことを私に言えば反論されると思って、あえて詳細を私に相談しなかったんだ)
涼しい顔で食事を口に運ぶ忍を横目で見る。
怜悧な頭脳を持っていそうだとわかる知性的な眉、意思の強そうな瞳。
そんな彼が、鈴音のことをいいところの家系だと即答した。やはり、それなりの相手じゃないと、結婚は許されないのだろうと鈴音は思った。
そうなると、ますます今後のプレッシャーがのしかかる。
鈴音はひとりだけ食事に手も付けられずにいた。
忍が鈴音に声をかけようとフォークを置いたときに、光吉の携帯が音を上げた。
忍が代わりに適当なエピソードでも言おうとした瞬間、鈴音が先に口火を切った。
忍は驚いた目で鈴音を見る。
「私が困っているときに現れて、何度も助けてくれたんです。……運命を感じました」
「ほう。それはまた、すごい美談だな。無駄を嫌う忍が何度も駆けつけるほど、鈴音さんに夢中だったわけだ」
「いえ……。きっと、私が危なっかしくて放っておけなくなっただけだと思います。忍さんは、優しい方ですから」
鈴音は僅かに目を伏せ、口元を緩ませながらそう語る。
光吉はさらに鈴音へ問いかけた。
「それで? 鈴音さんのご実家はなにをなさっているのかな?」
「実家……ですか?」
つい今しがた危機を乗り越えたばかりなのに、一難去ってまた一難。
鈴音は光吉の質問に、正直に答えるべきか躊躇する。しかし、そこは忍がすぐに対応した。
「彼女は、日本でも人気の海外メーカー、チェルヴィーノ日本支店社長の姪なんだ」
鈴音は、忍の口からスラスラと零れ出る言葉に呆気に取られる。
(チェルヴィーノでは働いているけれど、社長の姪だなんて!)
あまりに大きな嘘に、鈴音は開いた口が塞がらない。それに構わず、忍は会話を続ける。
「チェルヴィーノ? イタリアのか?」
「はい。彼女も東雲百貨店に入っている直営店で勤務しています」
「働いているのか。それは感心だ」
鈴音は、もっと綿密に〝設定〟を聞いておけばよかったと思ったが、それ自体が忍にとって不要だったのだと理解した。
(きっと、事前にこのことを私に言えば反論されると思って、あえて詳細を私に相談しなかったんだ)
涼しい顔で食事を口に運ぶ忍を横目で見る。
怜悧な頭脳を持っていそうだとわかる知性的な眉、意思の強そうな瞳。
そんな彼が、鈴音のことをいいところの家系だと即答した。やはり、それなりの相手じゃないと、結婚は許されないのだろうと鈴音は思った。
そうなると、ますます今後のプレッシャーがのしかかる。
鈴音はひとりだけ食事に手も付けられずにいた。
忍が鈴音に声をかけようとフォークを置いたときに、光吉の携帯が音を上げた。