契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
やや感情的な口調で言い放ち、すぐさま立ち上がろうとした。すると真っ先に忍が鈴音の手首を捕え、席を離れることを阻止する。

引き留められることなど想定もしていなかった鈴音は、驚いて忍を見つめた。

「鈴音は肉が好きだと聞いた。だから、メインはそれに合わせてオーダーしてある。オレの好意を無駄にする気か?」

忍は鈴音に顔を近づけ、声を落とす。それを聞いて、鈴音はときめくどころか怪訝そうに眉を顰めた。
昨日の柳多とのやりとりを思い出したからだ。

(やっぱり、プライドが高い人なんだ)

鈴音は辟易にも似た思いを抱き、失笑する。

「まさか、食べ物の嗜好まで調べられていたなんて」
「初めはどうでもいいような情報だとは思ったんだけどな。何度か鈴音と会って、やたら細い腕とか担いだときのあまりの軽さが衝撃で。ちゃんと食ってるのか?」

重ね重ね失礼な態度を取っているにもかかわらず、心配するような言葉が飛んできて一驚する。けれど、この程度のことでは鈴音も簡単に心を開かない。

「……ご心配なく。朝昼晩、欠かさず食べていますから」

ツンとして冷たい返事をした鈴音だが、あろうことかここでお腹から間抜けな音を出してしまった。タイミングがタイミングなだけに、鈴音も顔から火が出る。

それにも関わらず、忍はひとこと「そうみたいだな」とクールな声で返した。

(確かに生意気な態度は取ったけど、恥をかいている女性に対してその反応はあんまりだ)

手にグッと力を入れて握り、深く俯く。右手はまだ忍に掴まれたまま。
宙に浮いていた手を、そっと膝の上に戻される。ゆっくり離れていく忍の手と同時に、ちらりと顔を窺った。

鈴音の瞳に映った忍は、可笑しそうに眉尻を下げていた。
< 64 / 249 >

この作品をシェア

pagetop