契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
開店前の売り場に降り、髪を束ねているところに足音が近づいてくる。振り返った先にいたのは佐々原で、鈴音はすぐに頭を下げた。

「おはようございます。今日は、無理言ってシフト変更して頂いてすみません」

深々と首を垂れる鈴音に、佐々原は明るい声で言った。

「山崎さん。ううん。気にしなくてもいいよ。急用なんでしょ?」
「はい……本当、急で……」

鈴音は作り笑いで言葉を濁す。

今朝、忍に『迎えに行く』と言われたのを思い出す。なぜ、そういう話になっているのかというと、以前、光吉が話していたパーティーの日程が今日だからだ。

そのときに、鈴音も出席すると答えてしまったため、あの後すぐに佐々原にシフト調整をお願いしていた。

(それにしても、どんなパーティーなのかもわからないし、不安しかない。忍さんは相変わらず、『心配いらない』としか言わないけど)

鈴音は、まだ友人の結婚式にすら出席したことがない。服も無ければ、雰囲気すら想像がつかない。なにか無作法なことをして、忍の足を引っ張るのではないかと気が気でない。

考え事をしていたら、佐々原が心配そうな声で名前を呼んだ。

「山崎さん?」
「え? あっ、すみません! 開店準備しますね」
「最近なにかあった?」
「えっ」

佐々原は、この場を取り繕って仕事に戻ろうとした鈴音の腕を軽く掴んだ。鈴音は驚いた目を向け、言葉を詰まらせる。
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