契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「皆様。本日は、我が西城戸(にしきど)グループ創立記念パーティーにお越しくださり、誠にありがとうございます」

スピーカーから挨拶文句が聞こえるのと同時に、金屏風の前にスポットライトが当てられる。

鈴音は自然とステージ上に視線が向く。そこには、西城戸グループ代表の西城戸忠(ただし)がマイクの前に立っていた。
つらつらと形式通りの挨拶を続けているなかで、鈴音はステージ脇に立つひと際派手な女性に目が留まった。

深紅のミニ丈のドレスに、豪華そうなアクセサリー。ライトが当たっていないのに、代表の西城戸よりも目立っているとすら思えた。

(ステージの近くにいるし、堂々としてるし、お嬢さんとか?)

「行くぞ、鈴音」
「え? は、はい」

そんなことを考えていると、挨拶は終わっていたらしく忍に声をかけられる。慌てて返事をし、忍についていく。
忍は今しがた挨拶を終えた西城戸の元へ行き、躊躇いもなく声をかけた。

「西城戸社長。この度は、おめでとうございます」
「おお、忍くん。来てくれたんだね、ありがとう。おや? そちらの女性は……」

鈴音は西城戸を間近に見て、光吉と同じ年くらいの西城戸は、少し恰幅がよく、人当たりが良さそうな男性だと感じた。
西城戸の言葉に忍は優しく目を伏せ、鈴音の背に手を添える。

「ええ。私がどうしても一緒に西城戸社長にご挨拶したくて」

鈴音は西城戸よりも、背中にある忍の手に緊張する。背筋を伸ばし、ぎこちなく頭を下げた。

「山崎鈴音と申します」

西城戸はずんぐりした手を顎に添え、鈴音をまじまじと見る。困ったように眉を下げ、笑って言った。

「ほう。忍くんもいよいよ決めたか。おめでとう。いやぁ、しかしこれは、しばらく星羅(せいら)が荒れそうだな」

(星羅? さっきのあの人かな。だけど、『荒れる』っていうのは……)

鈴音は不安げな表情で小さく首を傾げる。西城戸はほかに声をかけられ、忍の腕をポンと触った。

「じゃあ、ゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いいたします」

忍が礼をしたのを見て、すばやく鈴音も倣って頭を下げた。横目でチラッと忍が姿勢を戻したのを確認し、ゆっくり顔を戻す。

(やっぱり、場慣れもしてないし誰ひとり顔も名前も知らないと不安で仕方ない)
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