契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
忍への敵対心をストレートに向けられ、今度は彼を睨みつける。

「どうせ大して仕事もしないで、女に化粧品渡し歩いてるんだろ。いい御身分だよなぁ。ジュエリーと違って、安価だから配りやすいだろうし。きみも、そういう戦術に引っかかっちゃった感じかな?」

相良は、まるで『お気の毒様』とでもいうように眉を上げ、憐れむ目を鈴音に向けた。
しかし、鈴音は満面の笑みを見せる。

「ご親切にありがとうございます」

そして、丁寧にお辞儀をしたあとも、相良から目を背けなかった。
相良は鈴音の堂々とした振る舞いに圧倒されつつ、凛とした表情に目を引かれる。

「きみ……なんか不思議な魅力があるね。こう……目が離せないっていうか」
「そうですか。では、目を離さずご覧になっていてくださいね」

鈴音はさらに、にっこりと口角をあげ、突然手にしていたシャンパンをグイッと呷った。
相良は呆気に取られたように、ぽかんと口を開けてみている。

鈴音は顔を戻し、唇を離したグラスを色々な角度から見る。それが終わると、相良にグラスを近づけた。

「リップ、落ちてませんよね?」
「え?」
「今日のリップも、忍さんが用意してくださったんです。彼は、優れた商品を作ったり、シーンに合ったものを的確に選んだりできる」

鈴音が口をつけたグラスには、ほぼリップの色移りは確認できない。鈴音の唇をみれば、メイクしたときとまったく変わらない艶が健在だ。

鈴音は相良を見据え、薄っすら微笑んだ。

「私に魅力があると仰るのなら、それはすべて彼が引き出してくれたものです」
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