契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「え?」
「あ、ごめんなさいね。今の会話聞こえてしまって」

鈴音が驚いて顔を上げると、深紅のドレスの女性が笑顔を向けていた。

(この人、さっきステージの横にいた人だ)

鈴音は派手な衣装の女性を見つめ、なにも返せずにいる。女性は少々馴れ馴れしいくらいに話を続ける。

「さきほど、ローレンスの忍さんの隣にいらしたのを見たので。あ、私は西城戸星羅。どうぞよろしくね」

(あ、やっぱり。西城戸社長のご令嬢なんだ)

「山崎鈴音と申します」

鈴音は予想が当たっていたと思うと同時に、星羅の雰囲気からちょっと面倒臭そうだと感じた。
その予感は的中と言わんばかりに、星羅はグイグイと話題を振ってくる。

「ついさっき、パパに聞いて驚いたんです。忍さんと婚約されたとか。ところで、あなたのお父様は、なにをなさっている方?」

普通、初対面の人を相手に、親の職業をきいたりするものなのかと疑問を抱きながら、鈴音は微笑を浮かべる。

「父は……小さいときに離婚しているので」
「え? そうなの? そうとは知らずにごめんなさい」

星羅は口では謝っているものの、その言葉に心を込めている感じはなかった。

(さっきの相良って人より扱いづらいかも、この人)

鈴音は星羅とどうしたら話が終わるか考える。
黙り込む鈴音に向かって、星羅はくすっと笑った。

「一般家庭で、しかも母子家庭で育ったなんて。なんで、忍さんはあなたを選んだのかしら?」

星羅の鋭い視線を見て、西城戸が忍に言っていた『星羅が荒れそうだな』という言葉を思い出す。

(もしかして、この人、忍さんのこと……)

鈴音は星羅の言動が、嫉妬から来るものだと確信する。

「せいぜい、甘やかされ過ぎて、彼の足を引っ張らないようになさったらいいわ」

嫉妬、羨望、優越、焦燥――。
色々な感情が入り乱れている瞳は、正直目を逸らしたくなるものだった。

(でも、約束は約束。私は彼の婚約者を演じなきゃ)
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