契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
それを聞いた鈴音は、会場をきょろきょろ見渡す。

(そういえば、さっき明理さんがお母さんの話してた! パーティーに気を取られてすっかり忘れてた)

光吉ともほんの少しの時間しか会わなかったうえ、会場には人が多すぎて探しきれない。
そわそわする鈴音を見て、柳多が言う。

「いや、でも本当、見違えますね」
「馬子にも衣裳ってやつですかね……。自分で言うのも虚しいですけど」

改めて言われると、普段の自分はそんなにも地味なのかと多少落胆する。
柳多はそんな鈴音の反応が可笑しくて笑った。

ひとしきり笑った後、鈴音へ耳打ちする。

「いえ。さきほども、べつの方が、西城戸のご令嬢にも見劣りしないと仰っていましたよ」
「え? あっ」

鈴音は柳多の褒め言葉よりも、星羅の存在を思い出して声を上げた。近くを見回しても、もう彼女の姿はない。
微妙な空気で別れてしまってモヤモヤしつつ、どこかホッとした。

「どうかいたしました?」
「いえ。それより、忍さんのお母様はどの方なんですか?」

鈴音が目だけで周りを窺いながら尋ねる。しかし、柳多からはその返答どころか、反応自体がない。不思議に思った鈴音が柳多を見上げると、驚いた表情で固まっていた。

「柳多さん?」

訝し気に首を傾げた鈴音に、柳多は「ふふっ」と笑いを零した。

「いや。『忍さん』と呼ばれているんですね。あまりに自然で聞き逃すところでした」

柳多の言いたいことがわかり、鈴音は照れ隠しで顔をつんと逸らす。

「……彼にそう呼ぶように言われたので」
「聡い人ですね。あなたを選んだ副社長の見る目はさすがだな」
「それって、褒められてるんですよね?」

鈴音は、つい最近、柳多に『したたかだ』と言われたせいで、あるから、そういう意味合いかと皮肉で返す。
柳多は、にっこりと微笑んだ。

「もちろんですよ。夫人の元へご案内しましょうか?」
「はい。あ、でも」
「桜子様!」
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