契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
鈴音は忍と一緒に挨拶をするべきかと迷ったが、柳多が女性の名を口にした。どうやら間に合わなかったようだと察する。
柳多の視線を辿った先には、淑女が優美に笑みを浮かべて正面に立っていた。
「倫也さん。もしかして、彼女が忍の……?」
「はい。山崎鈴音さんです」
鈴音が呆然としている間に、柳多が答える。
『桜子様』と呼ばれた女性は、やはり忍の母親なのだと思い、鈴音は慌てて頭を下げる。
「こんばんは。はじめまして」
鈴音は姿勢を戻し、改めて桜子をまじまじと見る。
(想像と違う。もっと厳しそうな雰囲気の人かと思っていた)
勝手なイメージだが、いい家柄に嫁ぐような女性は、もっと気が強そうで高飛車な態度を取られるような気がしていた。けれど、現実にはそんなオーラは欠片もなく、清楚で穏やかな人だった。
「鈴音さん。可愛らしい方ね。忍のこと、よろしくお願いしますね」
「えっ。あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
桜子は鈴音に対し、特に質問もせず、あっさり忍との関係を承諾する。鈴音は拍子抜けし、安堵するよりも逆に不安を感じるくらいだ。
「ああ、先に会ってたか」
そこに、ようやく忍が鈴音の隣に戻ってきた。今度こそ、鈴音はホッと胸を撫で下ろし、少し肩の力が抜ける。
「忍。鈴音さんをひとりにしたらダメじゃない。初めてなんだから、きちんと気遣ってあげないと」
「すみません。そういう親父は?」
桜子に窘められ、忍はさらりと謝りつつ、揚げ足を取るようなことも付け足した。
鈴音が忍の言葉にハラハラしていると、桜子の代わりに柳多が即答する。
「会場には一緒に入られたのですが、西城戸社長と話が盛り上がってしまったようで」
「そう。じゃあ、オレたちはもう少ししたら帰る」
「えっ」
忍が柳多に向かって、さらに驚く発言を落とし、思わず声を上げてしまった。忍を見上げると、飄々として鈴音に説明する。
「西城戸社長と盛り上がってるなら、もうオレは不要だろ。挨拶はしたし、この人数なら目立たないさ」
(そういうものなの?)
鈴音はなにもかもわからないので、忍の言う通りにしか動けない。
「じゃあ。柳多、母さんをよろしく」
「お任せください」
忍はそう言い残し、鈴音の肩を抱いて去って行った。ふたりの後ろ姿を見つめ、桜子がため息交じりに呟く。
「あの自由奔放さは、誰に似たのかしら」
桜子の一歩後ろに立つ柳多が、少しの間の後口を開いた。
「……桜子様ではないことは確かかと」
桜子は目を丸くさせて柳多を振り返り、寂しそうに眉を下げて笑った。
柳多の視線を辿った先には、淑女が優美に笑みを浮かべて正面に立っていた。
「倫也さん。もしかして、彼女が忍の……?」
「はい。山崎鈴音さんです」
鈴音が呆然としている間に、柳多が答える。
『桜子様』と呼ばれた女性は、やはり忍の母親なのだと思い、鈴音は慌てて頭を下げる。
「こんばんは。はじめまして」
鈴音は姿勢を戻し、改めて桜子をまじまじと見る。
(想像と違う。もっと厳しそうな雰囲気の人かと思っていた)
勝手なイメージだが、いい家柄に嫁ぐような女性は、もっと気が強そうで高飛車な態度を取られるような気がしていた。けれど、現実にはそんなオーラは欠片もなく、清楚で穏やかな人だった。
「鈴音さん。可愛らしい方ね。忍のこと、よろしくお願いしますね」
「えっ。あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
桜子は鈴音に対し、特に質問もせず、あっさり忍との関係を承諾する。鈴音は拍子抜けし、安堵するよりも逆に不安を感じるくらいだ。
「ああ、先に会ってたか」
そこに、ようやく忍が鈴音の隣に戻ってきた。今度こそ、鈴音はホッと胸を撫で下ろし、少し肩の力が抜ける。
「忍。鈴音さんをひとりにしたらダメじゃない。初めてなんだから、きちんと気遣ってあげないと」
「すみません。そういう親父は?」
桜子に窘められ、忍はさらりと謝りつつ、揚げ足を取るようなことも付け足した。
鈴音が忍の言葉にハラハラしていると、桜子の代わりに柳多が即答する。
「会場には一緒に入られたのですが、西城戸社長と話が盛り上がってしまったようで」
「そう。じゃあ、オレたちはもう少ししたら帰る」
「えっ」
忍が柳多に向かって、さらに驚く発言を落とし、思わず声を上げてしまった。忍を見上げると、飄々として鈴音に説明する。
「西城戸社長と盛り上がってるなら、もうオレは不要だろ。挨拶はしたし、この人数なら目立たないさ」
(そういうものなの?)
鈴音はなにもかもわからないので、忍の言う通りにしか動けない。
「じゃあ。柳多、母さんをよろしく」
「お任せください」
忍はそう言い残し、鈴音の肩を抱いて去って行った。ふたりの後ろ姿を見つめ、桜子がため息交じりに呟く。
「あの自由奔放さは、誰に似たのかしら」
桜子の一歩後ろに立つ柳多が、少しの間の後口を開いた。
「……桜子様ではないことは確かかと」
桜子は目を丸くさせて柳多を振り返り、寂しそうに眉を下げて笑った。