契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
コンビニに寄り、マンションの駐車場に到着する。車を降りた直後、遠くでジャリッという足音が微かに響いた。それに気がついたのは忍だ。

慣れないヒールを気にしながら裏口へ向かおうとする鈴音を、忍は引き寄せ、肩を抱いた。

「えっ?」
「しっ。少しの間、甘えとけ」

鈴音はどぎまぎとしながら、忍に寄り添ったままマンション内へ入った。コンシェルジュの前を通過する際も、忍は肩に手を置いていた。

鈴音は、すぐにでもなにがあったのか訊ねたかったが、忍の雰囲気から、まだ口に出してはいけない気がして黙っていた。

自宅に入ると、ようやく忍の腕が離れる。彼は「先にシャワー使っていいから」と言って、自室へ行ってしまった。

(聞き逃しちゃった……)

鈴音はモヤモヤしながらシャワーを浴び、キッチンに立っていた。しばらくすると、忍が濡れた髪を拭いながらやってくる。

「あ、今お湯用意してますけど、本当に食べますか?」
「ああ」

鈴音が食器棚から忍のぶんの茶碗を出すと、思い切って切り出した。

「あの、さっきは……」

しかし、ちょうど蒸気の音が割り込んで、言葉が中断してしまう。鈴音はやかんを火からおろし、茶碗に注ぐ。

(またタイミング逃した)

間が空くと、なお聞きづらい。鈴音は悶々としながらお茶漬けをテーブルに並べた。忍が興味津々で箸をつけるのを盗み見る。
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