結構な腕前で!
 そのとき、二人の前に座っているせとかの視線が、さらっとあらぬほうに流れた。
 それを追った萌実は、部屋の天井から僅かに煙が出ているのに気付いた。

「はるみ先輩」

 萌実が横のはるみに声をかけた瞬間、煙は一気に濃くなり、帯状になって茶室に流れ込んだ。

「うわっ」

「むっ」

 せとみと土門が、素早く飛んで煙を避ける。
 さすが柔道部のエースだけあり、でかい図体でも動きは機敏だ。

 壺を用意するはるみの横で、拳を握りしめた萌実だったが、不意に伸びた手にその手首を掴まれた。
 見るといつの間に近くに来たのか、せとかが萌実の手を抑え込んでいる。

「ちょっと様子を見ましょう」

「え?」

 聞き返したが、せとかは黙って萌実の攻撃を封じている。
 土門の出方を見る、ということか。

「大丈夫でしょうか」

 土門は魔に対しては素人だろう。

「大丈夫でしょう。せとみがいるし」

「まぁあの人なら力はありそうですけど」

「それに、はるかを守ると恥ずかしげもなく宣言したのなら、どの程度のお手並みか拝見したいじゃないですか」

 にやりとせとかの口角が上がる。
 黒せとかだ。

 二人でこそこそ言っているうちに、煙はますます大きくなる。
 大蛇が鎌首をもたげるように、煙は土門に向かって威嚇する。

「うぬ。こ、これが噂の魔物か」

 土門は険しい顔で、両拳を軽く握って腰を落とした。
 構えを取ったらしい。
 が。

「あの。あの人、柔道は強そうですけど、そもそも柔術ってどうなんです?」

 こそりと萌実が聞くと、せとかは口角を上げたまま、こくりと頷いた。

「気付きました? だから、どうすんのかな、と興味がありましてね」

 柔術では、投げるにしても押さえるにしても、相手と組まねばならない。
 組むためには、当然相手を掴む必要がある。
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