結構な腕前で!
「ただ掴めばいいってもんでもないでしょう。柔術には詳しくないですが、引き倒すにしても掴むポイントがあるはずです。あの煙の、どこを掴むというのか? しかも、素手で。彼には何の力もない。素手で触れるにはリスクが大きいと思いますね」

 説明内容は、なかなか恐ろしいような。
 だったら土門が魔に触れる前に止めたほうがいいのでは、と思うのだが、せとかが動く気配はない。
 ただ意地悪そうな笑みを浮かべて土門を見ている。
 真っ黒せとすけである。

「そ、そこまでわかってるなら、助けたほうが……」

 せとかの手を振り払おうとしたとき、煙が動いた。
 土門に向かって突っ込んだのだ。

「うぬっ!」

 構えていた土門は、焦ることなく煙を受け止める。
 が、次の瞬間には、うおっと叫んで手を離した。

 その隙に、煙に弾き飛ばされる。
 どかーん! と巨体が障子に激突し、ばりばりと派手は音を立てた。
 萌実の耳元で、せとかが、ちっと舌打ちした。

 土門に掴まれたためか、煙の先が若干広がり、少しだけ欠片がばらばらと降り注ぐ。
 それを回収しに、はるかが近付いた。

「はるか殿っ!」

 欠片を回収しにきたはるかを、倒れた己を心配してきてくれたのかとでも思ったのか、土門が素早く起き上がる。

「わしのことなど気にせず、逃げなされ!」

 言うなり、うおおおお! と煙に突っ込んでいく。
 先のように、がしっと組み付くが、やはり組み付いただけでは何にもならない。
 土門も、うう、と苦悶の表情だ。

「何の下準備もなくあれだけ魔に触れて、なかなか見上げた男ですなぁ」

 相変わらずせとかは、ふふふ、と笑っているだけで助けに入る様子はない。
 そんな真っ黒せとすけの横から、せとみが飛び出した。
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