結構な腕前で!
「それを持って帰らねばならないのですが……」

 ふぅ、とせとかがため息と共に言う。
 何だかやけにお疲れだ。
 膝枕から起きないのも、しんどいからか。

---けど、下手したらセクハラだよ……---

 萌実はせとかを好いているからいいようなものの、嫌いな人間であれば膝枕などもっての外だ。
 その前に一瞬で膝を引くだろうが。

「では北条殿は、わしがお送りしましょう」

 土門が言い、さっとせとかに背を向ける。
 負ぶうつもりのようだ。
 部室からは山道だが、土門のでかい身体であれば、華奢なせとかなど軽い荷物程度だろう。

「あ、じゃあ風呂敷持ちます」

「いや、お気になさらず。これぐらい、軽いものじゃ」

 片手で風呂敷を抱え、片手で背中のせとかを支える。
 せとかが少し顔をしかめた。
 どうも歩くのもままならないようなので、土門の存在はありがたいのだが、好きこのんで男に負ぶわれたくはないようだ。
 背にあっても、必要以上に引っ付かないように、背筋をぴっと伸ばしていたが、すぐに辛そうな顔になる。

「あの、先輩。辛いなら土門くんに全面的に甘えたほうがいいですよ。落っこちそう」

 少し後ろから、萌実が声をかける。
 下手したら後ろに倒れそうだ。

「その通りじゃ。ささ、北条殿、遠慮なさらずもたれてくだされ」

 無理もないが、せとかの眉間の皺が深くなる。

「そ、それに、いっそのことぐったり土門くんに抱えられてたほうが、見た目にもおかしくないですよ」

 負ぶわれているほうがぴんとしていると、ただ男が男を負ぶっているのが目立つだけだ。
 負ぶわれているほうが、いかにもぐったりしていれば、具合の悪い者を運んでいる、と一目でわかる。
 男同士でもおかしくないわけだ。

「そうは言いましても、僕はノーマルですし」

「わかってます。だからこそ、ぐったりしてないと世間はそう見てくれないんです」

「それはそうと、風呂敷は南野さんが持ってください」

 しぶしぶ土門の背で小さくなり(でも小さくなっただけで、頑としてもたれかかることはしない)せとかは萌実に言った。
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