結構な腕前で!
「すみませんね」

 小さく言い、ベッドに降ろされるなり、せとかは爆睡に入ってしまった。
 やはり何だかんだで眠気に耐えていたらしい。

「二人とも、ありがとうね。お茶淹れるわ」

 まるで自分の家のように、はるかが二人を促す。
 萌実はきょろきょろと、家の中をガン見した。

 見かけだけ、とはるかは言ったが、中身もちゃんと立派だ。
 どこかの料亭のよう。
 庭に目をやると、向こうのほうに離れが見えた。

「あそこが茶室よ。今はおばさん、生徒さんの相手をしてるから」

 なるほど、だから誰も出てこないわけか。
 はるかについて、土門と萌実は居間に通された。

「部長殿は、大丈夫であろうか」

 居間で出されたお茶を啜りながら、土門が気遣わしげに言う。
 力を使いすぎて、ただ寝入ってしまっているだけ、ということを知らない人間からしたら、いきなりあそこまでへろへろになられたら驚くだろう。

「大丈夫よぉ。寝てるだけだから」

 にこにこと、はるかが言った後で、萌実に目を投げた。
 そして少し不思議そうに、首を傾げる。

「ねぇ。萌実さんもいたのよね? なのにせとかがああなるなんて、よっぽど強い魔だったの? 萌実さんの調子が悪かったとか?」

「あ……ええっと……」

 ちょっと赤くなって、萌実が口ごもる。
 その横で、何も知らない土門が口を開いた。

「確かにちょっと、部室で見る魔とは違ったようでござる。どこからか湧き出るわけでもなく、気付いたら廊下いっぱいに広がっていて。ああ、ドライアイスのようでありましたな」

「あ、そうそう。そんな感じでしたね。しかも、その中は空洞みたいで、足を踏み出したら川みたいに落ちそうになりました」

 最早土門のやたら時代掛かった口調には突っ込むまい、と萌実ははるかに説明する。

「あ、で、その魔の塊がこれです」

 ずっと持っていた風呂敷包みを、はるかに差し出した。

「ちょっと待ってね」

 風呂敷を解こうとする萌実を制し、はるかが腰を上げた。
 奥に走り、すぐに戻ってくる。
 その手には見慣れた壺があった。

「ふむふむ。固まってしまったら、いつもと変わんないように思うわねぇ」

 萌実から受け取った風呂敷を壺の上で開いて、しげしげと眺める。
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