結構な腕前で!
「二人抜けられたら、ほぼ半数じゃない。大きいでしょ」

「まぁそうですけど」

 団体競技ではないのだから、別に二人いれば十分なのでは、とも思うが、これも黙っておく。
 とりあえず道場いっぱいに飛び散っている欠片を集めていると、道場の入り口にはるかが姿を現した。

「あ、今日解放したんだ。せとか、ごめんなさい」

「無駄口叩いてないで、さっさと掃除に加わりなさい」

 頭を下げるはるかを見もせずに、せとかはざっしざっしと箒を動かす。
 あまりの冷たさに、大いに文句を言いたいであろうせとみも黙ってしまう。

 ここまでせとかが怒ったのは初めてなのか、はるかも驚いた顔をした。
 が、すぐにはるみと同じように、壺に欠片を入れていく。
 ぐずぐずして、さらなる怒りを買うことは避けたかったのだろう。

 しばし緊迫した空気の中掃除をし、ようやく道場内が綺麗になった。

「ふむ、よし。後の掃除は土門に頼みましょう」

 あとは普通に雑巾がけをするだけだ。

「では、はるかとせとみ。そこへ直れ」

 道場の上座を背に、せとかが仁王立ちして命じる。
 ひく、と二人の顔が引き攣った。

「とりあえず私たちは、こっちに避難しておこう」

 こそっとはるみが、固まっている萌実に耳打ちし、せとかの背後に引っ張る。
 そして壁際に小さく座った。

 せとみとはるかも観念したらしく、項垂れたまませとかの前に腰を下ろす。
 まるでお白州に引き出された罪人だ。

「せとみはともかく、はるか。部活をさぼって他部の練習を見に行くというのはどういうことです」

「……ごめんなさい」

「謝罪はさっき聞きました。今は理由を聞いてるんです。この茶道部は、単なる部活じゃないんですよ。ちゃんとした使命があるのです。疎かにしていいものでないのは、昔からわかっていることでしょう」

 しゅん、とした女子相手でも容赦ない。
 萌実は引いたが、横のはるみはそういうせとかも知っているようだ。
 ただ恐ろしくはあるようで、全力で気配を消しているが。

「土門の試合を見に行くのはいいでしょう。ですが試合はまだまだ先の、日曜のはず。何故練習まで見る必要があるんです」

「えっと。そ、それは……。きょ、興味があって……」

「それは、柔道に、ですか? それとも土門に?」

 ずばりと聞く。
 冷静に淡々と聞くせとかとは対照的に、せとみは横で俯くはるかをガン見した。

 さすがにはるかも口を噤む。
 が、顔は赤い。
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