結構な腕前で!
第十五章
 さてそれから半月ほど経った、とある金曜日。

「いよいよ明日が試合ですか」

 せとかが点てたお茶を土門に渡しながら言った。

「はい。体調も万全、何の問題もござらん」

 濃茶を豪快に飲み干しながら、土門が言う。
 萌実はいまだに濃茶は苦手だが、土門は薄茶でも濃茶でも変わらず飲める。
 単に味音痴なのかもしれないが。

「試合の前日だってのに、呑気に茶ぁ啜ってていいんかい」

 茶菓子の羊羹を頬張りながら、せとみが上目遣いに土門を見る。
 あれからさぼることはなくなったが、土門との仲が改善されたわけではない。

「茶道も武道に通じるところがある。昔の武将も、茶を嗜んだのはそういうことじゃ」

「そうですね。むしろ試合前は心を落ち着けるほうが肝心かと」

 にこやかに言うせとかの目が、畳の一点に向く。
 じわ、と煙が湧き出てくるのに気付き、せとみがさっと扇を取り出した。
 が。

「ちょっと待ってください」

 ぴ、とせとかが、せとみを制した。
 そのうちに、煙はじわじわ大きくなり、畳が浮き上がるぐらいになる。

「おいせとか! 何ぐずぐずしてんだ!」

「試したいことがあるんです」

 そう言うと、せとかは柄杓を構え、片膝を立てて土門を見た。
 何か事前に話し合っていたのか、土門が軽く顎を引く。

「行きますよ」

 せとかが言った途端、畳を突き破る勢いで、煙が吹き出した。

「はっ!」

 畳を蹴って、せとかが柄杓を煙の先に打ち付けた。
 その部分から、びきびきっと固まっていく。

「土門!」

「うおおおっ」

 せとかと入れ替わりに、土門が煙に突進した。
 え、と皆が驚いている前で、土門は先程せとかが打った部分を抱え込むように、煙に取り付く。

「うぉりゃあぁっ!」

 そのまま土門は、背負い投げの要領で、煙全体を投げ飛ばした。
 どーん! と反対側の壁に激突し、煙は全体が塊になり、さらに打ち付けられて粉々になった。

「……」

 呆気に取られて萌実やせとみが固まっていると、ぱちぱち、と呑気な拍手が聞こえた。

「成功です。さすがですね」

 せとかが笑いながら手を叩いていた。
 そして土門をまじまじと見る。
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