結構な腕前で!
「冷めますよ」

 せとみに迫られ固まる萌実の前で、せとかが抑揚のない声で、前に置いた茶碗を指した。

「……お前はもう。空気読めよ」

「読んでますよ。出されたお茶に手を付けないのは失礼です」

 不満そうに言うせとみを軽くいなし、せとかははるかが差し出した紙袋を受け取った。
 中身を覗き込み、ちょっと首を傾げる。

「平べったいし、菓子鉢に取ったところで、箸で取るのはちょっと難儀かも。菓子きりで食べるのも面倒ですし」

「鯛焼きですからね~」

「あんこもたっぷりよ~」

「「しかも! はちみつ入りあんこなんです~!」」

「ほぅ。それは美味しそうですね」

 途端にせとかが破顔する。
 それに、治まっていた萌実の鼓動が跳ね上がる。

 せとか先輩も、こんな嬉しそうな顔するんだ!
 それがはちみつ入りのあんこに反応して、というところは若干残念だが。

「じゃ、これはこのまま頂きましょう」

 いそいそと、せとかが一つ鯛焼きを取り、残りを皆に回す。
 さりげなく、萌実はせとかを観察した。
 鯛焼きの食べ方には、その者の性格が現れる。

 密かに見守る萌実の前で、せとかは鯛焼きにかぶりついた。
 躊躇いなく、頭からがっつりと。

 まじか、と引きつつ、萌実はそのまま横のせとみを見た。
 せとみは一旦尻尾を確認するように軽く触ると、懐紙を出して、ちぎった尻尾を置いた。
 そして尻尾を残して、お尻のほうから齧りつく。

「尻尾嫌いなんですか?」

 聞いてみると、とんでもない、というように、せとみは手をぶんぶんと振った。

「逆だよ。こういうぱりっとした尻尾、好きなんだ。だから、それを最後に残すの」
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