結構な腕前で!
 あ、なるほど、と思っていると、早くも鯛焼きを食べ終えたせとかが、呆れたように懐紙の上の尻尾を見た。

「だったら頭から食べればいいのに、と思いません?」

「あ、そうですね」

「それは、可哀想だって言うんですよ」

 ずず、といつの間にやら点てていたお茶を飲みながら、せとかが言う。
 ええ? と萌実は思わずいかにも意外そうな目をせとみに向けた。

「えー、だって頭から齧るなんて残酷じゃん? 目が合うしさぁ。そんな可哀想なことできないよ」

 照れたように言う。

 そうなのだ。
 鯛焼きを頭から齧る人間は残酷なのだと何かで読んだ。
 目が合うってのは初めて聞いたが。

 だが。

「可哀想だと言うのなら、なおさら頭から齧るべきです。これが本当の鯛だとしましょう。尻尾からじわじわ食われていくよりも、いきなり頭を潰されたほうが楽に死ねると思いませんか?」

 真面目な顔して説明するせとかは格好良いが、内容が微妙だ。

「まぁ魚は痛点がないらしいので、どっちから食べられようが構わないかもしれませんがね」

「え、そうなんですか?」

「そうらしいです。だからなるほど、お造りとかで片身を切られても皿の上で生きてるわけだ、と思うわけです」

 相変わらず真面目に説明してくれるせとかに、萌実は尊敬の眼差しを向ける。
 とても難解な問題の説明をされているような雰囲気だが、内容は知ったところであまり役には立たないものだ。
 しかも脱線している。

「俺は、好きなものは大事に最後まで取っておく主義なの」

 ようやく鯛焼きの本体(?)を食べ終えたせとみが、そう言って懐紙に取っていた尻尾を口に入れる。
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