結構な腕前で!
「だから、それだったらなおさら、頭から齧ればわざわざちぎって置いておかなくてもいいから楽でしょう」

「だから! 頭から齧るなんて目が合って嫌なの!」

「せとみはこう見えてビビりなんです~」

「焼き魚も食べられないしね~」

「「魔のものは平気なのにね~~」」

 はるかとはるみが、何故か鯛焼きを真ん中のお腹から食べながら言う。
 食べ方もそっくりである。
 そしてもしかして、この二人が一番残虐なんじゃ……。

「ところで萌実ちゃん。すっかり茶道部に慣れたようだし、壺のことも教えておこうか」

 良い感じにぱりっとした尻尾を堪能したせとみが、改めて萌実に向き直る。
 慌てて萌実は、手にあった鯛焼きを口に放り込んだ。

「あ、慌てないでいいよ」

 そう言ったせとみが、不意に手を伸ばした。
 そして萌実の口の端についていたあんこを指先で拭う。

 うわおおお~~~!! と心の中で雄叫びを上げ、萌実は今度こそ仰け反った。
 これはいけない。
 下手したらセクハラだが、セクハラとは相手によるのだ。
 見目良い男にされるとセクハラの九割は無罪である。

 ばっくんばっくん言う心臓を押さえていると、萌実とせとみの間に、ずい、と湯の入った柄杓が突き出された。

「口の周り、拭いたほうがいいです」

 冷静に言われ、萌実はまた真っ赤になった。
 急いで懐紙を一枚、軽く湯につけて湿らせると、それでこそこそと口を拭いた。

「壺っていうのはさぁ、まぁはるかとはるみの役目なんだけどね」

 そんな萌実の様子は気にせず、せとみが話を再開する。
< 29 / 397 >

この作品をシェア

pagetop