結構な腕前で!
「これについての詳細記事的なものが、これですわ。何となく、この世には魔が多くなる時期ってのがあって、その時期に、こういった強い力の持ち主が現れるっていうサイクルがあるように思いますの」

 何やら難解な古い書物を繰りながら、由梨花が言う。

「この神の子っていうのが葬られたのが、わたくしの家のある、あの山ですわ。おそらく真行寺家は、その子に仕えていたか、そういった家だったんでしょう。長く近くにいれば、魔と対峙することも多くなりますし、普通の者より対応できるようになりましょう。それが証拠に、わたくしたち個人には、さほどの力もありませんしね」

「ふーん、なるほど。だとしたら、私たちはどういった過程で、こういう力を身に付けたのかしら」

「橘家も北条家も、名前からして守りの家系ですもの。おそらくあなたたちも、魔が強くなるサイクルに合わせて力の出具合が変わるのでしょうよ。そして萌実さんは、突然変異……てところかしら。言ってしまえば、神の子的な存在ですわね」

「凄いわね」

 はるみに褒められても、萌実はやはり微妙である。
 昔だから『神の子』で崇められたのであって、今では単に変な人ではないか。

「南野さんが現れた、ということは、今は魔のピークってことですか」

 眼鏡を中指で押し上げながら、せとかが言う。
 そして、何かを考えるように、文献に目を落とした。

 魔が現れないと、ひたすらぼーっとしているのに、今日はきりっとしている。
 魔と戦っているがちゃがちゃした状態でなく、落ち着いた状態で真剣な表情の先輩を見られるなんて貴重、と緩む頬を押さえながらせとかを盗み見ていた萌実だが、ふとせとかが顔を上げて萌実を見た。

「しかし、南野さんの位置づけがこの神の子だとすると、ちょっと恐ろしいことになるかもしれませんね」

 巻物の最後のほうを指しながら、せとかは難しい顔で言った。
 せとみも、文献を見ながら渋い顔をする。

「……この神の子は、魔の取り込みすぎで亡くなった、ということですわ」

 せとかたちの様子が何なのかわからない萌実とはるみに、由梨花が説明する。
 そりゃ魔を取り込んだりしたら寿命も縮まるだろ、と思った萌実は、はた、と気付いた。
 自覚はないが、確か自分も魔を取り込んだことがあるのではないか?

「気付きましたか」

 にこ、とせとかが笑いかける。
 いやこのタイミングで微笑まれても!
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