結構な腕前で!
「うええぇぇ?」

「そういう品種があるんです」

 さらりとせとかが補足する。
 品種から名前をつけられるって……。

「こういう稼業をしてると、名前は大事ですから」

「そうなんだよ。名前のお蔭で、それなりに守られてるってわけ」

「橘家は、苗字も名前もミカンですから~」

「守りは万全なんですよ~」

「「さすがに、まんま『みかん』とは付けられなかったです~」」

 そういうことか。
 せとかとせとみは、ちょっと変わった名前だな、と思ったが、そんな意味があったんだ。
 今度スーパーで探してみよう、と思っていると、せとかが、ちょいと萌実を指差した。

「南野さんも、そうなんですよ」

「え?」

「しかも、最強」

 せとみも萌実のほうに身を乗り出す。

「さっきせとみが言ったでしょう。北と東は『出る』ほう。南と西は『入る』ほう。北の対になるのが南です。さらに『萌実』という名前。桃が古来から最強の魔除けだというのは有名ですよね」

 話しながら、せとかはまた茶を点て始めた。
 しゃくしゃくしゃく、と茶筅が茶碗を擦る音が響く。

「ミカンよりも強い、魔除けの名です。守りとしては最強ですよ」

「いやあの……。私の名前は『萌実』であって『もも』じゃないです」

 いまいち話がわからず困ったように言うと、せとかは、ああ、と小さく呟いた。
 何か、ちょっと馬鹿にされたような。

「桃の語源ですね。実の中のほうが赤いでしょう。だから『燃実』と言ってたんですよ。まぁ字は違うようですが」

「え、そ、そうなんですか」

「知らなかったんですか?」

 点てた茶を勧めながら言うせとかに、萌実は少し恥ずかしくなった。
 何となく無知さをさらけ出したような。
 普通は知っているものなのだろうか?
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