結構な腕前で!
「おかしいですね」

 何だか一人のんびりと構えているせとかが、煙相手に扇を振るっているせとみを見ながら首を傾げる。

「え? 何が?」

 はらはらしながら振り向いた萌実は、せとかの表情にどきっとした。
 こちらもいつものぼーっとした雰囲気は一変、鋭い目で周りを窺っている。

 動きを止めて辺りの気配を探っていたせとかが、いきなり萌実の腕を掴んだ。
 そのまま引き寄せる。

「えっ……」

 いきなり抱き締められ、萌実はパニックになる。
 だが、その瞬間、二人の横の壁から煙が噴き出した。

「親玉はこっちか」

 せとかは片腕で萌実を支えたまま、素早く後ろに飛んだ。
 開いた片手は懐に入っている。

 せとかは地に足がつくと同時に、懐に入れていた右手を抜いた。
 その手元から、ひゅっと菓子きりが何本か飛ぶ。
 それらは全て、煙に突き刺さった。

 煙は攻撃を食らうと、そこから崩れるようだ。
 せとかは着物の袖で、降ってくる煙の欠片から萌実を守った。

「……」

 せとかに抱き寄せられたまま、萌実は大人しく小さくなっていた。
 どきどきと鼓動がうるさい。

 憧れの先輩に抱き寄せられているのだ。
 いくら周りが怪しげな煙だらけであろうと、ときめかずにおれようか。

 だが萌実の幸せは、他ならぬせとか本人によって強制終了させられた。

「ほら、南野さんも、どう攻撃すればいいか実戦をもって練習してください」

 え、と思う間もなく、ぐい、と掴まれていた肩を軸に反転させられる。
 くるりとダンスよろしく、萌実はせとかの前面に。
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