結構な腕前で!
「きゃ!」

 つんのめったはるかが、派手に転ぶ。
 靴を地面に縫い付けているのは花鋏だ。

「但馬」

 由梨花が顎をしゃくると、さっと但馬が風のように駆け出し、はるかを羽交い絞めにして茶室の中へ連れ戻してきた。
 せとみとはるみは、呆気に取られてその様子を眺めた。
 投げた鋏を、踵を傷付けることなく靴のみに突き刺す技術も大したものだが、相変わらず但馬の忠犬っぷりにも驚かされる。

「は、離してよ!」

 但馬に捕まえられたまま、じたばたと暴れるはるかに、由梨花は鬱陶しそうな顔を向け、再度但馬に顎をしゃくった。

「但馬。面倒だから、動けないように足でも折っておきなさい」

 ぴた、とはるかが動きを止める。
 せとみとはるみがぎょっとしているうちに、但馬はささっと、はるかの足に手を添えた。

「わーっ! ちょっと待て! おい、やめろ!!」

 せとみが血相を変えて、はるかに駆け寄る。
 ぱし、と扇を閉じる音が、背後から聞こえた。

「但馬、おやめ」

 由梨花の一声で、但馬は動きを止める。
 全くもってこの男の忠犬っぷりは常軌を逸している。
 何か、どっと疲労がせとみを襲った。

「冗談ですわよ。そのような恐ろしいこと、わたくしがするわけないでしょう?」

 ほほほ、と笑うが、せとみもはるみも胡乱な目を向ける。
 由梨花がやらなくても、但馬はやるのだ。
 はるかは最早土門を追う気力もなくしたようで、その場にへたり込んでいる。
< 364 / 397 >

この作品をシェア

pagetop