【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!

「馬鹿にしてるわ」

芽衣は、思わず思っていたことを口に出していた。

「やっぱりですよね? さっきのお客様。冷やかしですかね?」

綺麗なモデルルームの一室。

テレビについた埃を小さな掃除用具で取っていた祐美が手を休めて芽衣にむいた。

「え?」
テーブルセットの椅子に腰掛け、ノートパソコンを広げていた芽衣。

「あのカップル。全然買う気とかなさそうでしたよね? 来場プレゼント狙いですよね、絶対」
祐美は、テーブルの方へ来て芽衣の向かい側に座った。

「そうだった?」
先ほどまで、20代後半のカップルがモデルルームに来ていた。始終いちゃいちゃしていて、少し暑苦しく感じたのは確かだ。

「アンケートからしてデタラメっぽいですよね」

来場した客に書いてもらったアンケート用紙を手にした祐美は、
「名前見ました?『田中』ですよ? 平凡で一般的な名前使ってんですよ。偽名ですよ、絶対」

「一応さ私も田中なんだけど?」


「あっ…」
今気がついたというように祐美は掌で口を押さえた。

「平凡な名前でごめんね、祐美ちゃん」

「すいませんっ! 芽衣さんのことじゃなくて。で、でも、あの平凡なのは、悪いことじゃなくてですね」
しどろもどろする祐美に芽衣は笑ってみせた。

「わかってる。祐美ちゃんの言う通り偽名かもしれないよね」

後でハウスメーカーから営業されないようにアンケート用紙に客が偽名や適当な電話番号を書くのは良くあることだ。

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