Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「私と夕緋には、会社と、その従業員を背負う責任があるのです。私たちの結婚は、全社員の悲願。そして、夕緋の妻となるのは、夕緋と同じ環境で育った、私にしか務まらないと自負しております。失礼ですが、華穂さんは、大企業の長の嫁として立派に振舞える自信と教養をお持ちでいらっしゃいますか?」
そう問われてしまったら、もう黙り込むしかなかった。
もちろん、私には、その手の教養などなにもない。なんの運命も背負わず、普通に育てられてきたのだから。
「それでもいいと、優しい夕緋は言うでしょう。ですから、あなたから身を引いてほしいのです。あなたが夕緋のことを本当に愛しているというのなら……」
その場を沈黙が支配した。
昼間はさぞ賑わいを見せているであろうパティスリーも、誰もいない今は怖いくらいになんの音もしない。空のショーケースがいっそう冷え冷えとしていて、なんだか寒い。
「……話は済んだのか?」
陣さんが店の外を指した。
「お迎えだ」
見ると一台の黒塗りの高級車が店の前に止まっていた。それを見た彼女の顔から、サッと血の気が引く。
「陣! 連絡したのですか!?」
「だって、お前の伯母さんに怒られんの、俺だし。この前、なんて言われたと思う? 『未成年を勝手に連れ出すのは、犯罪と言われても文句は言えませんよ』だぜ? 俺、お前にパシられてるだけなのに」
「もう! 融通が利かないのだから!」
千里さんは慌てて立ち上がると、私に向かって再び深く一礼した。
「お話、考えていただけますか。今日のところはこれで失礼します」
それだけ言い残し、彼女は店の外へと走り去っていった。
外は暗くてよく見えないが、彼女が車の後部座席へと吸い込まれていくところだけは見えた。
そう問われてしまったら、もう黙り込むしかなかった。
もちろん、私には、その手の教養などなにもない。なんの運命も背負わず、普通に育てられてきたのだから。
「それでもいいと、優しい夕緋は言うでしょう。ですから、あなたから身を引いてほしいのです。あなたが夕緋のことを本当に愛しているというのなら……」
その場を沈黙が支配した。
昼間はさぞ賑わいを見せているであろうパティスリーも、誰もいない今は怖いくらいになんの音もしない。空のショーケースがいっそう冷え冷えとしていて、なんだか寒い。
「……話は済んだのか?」
陣さんが店の外を指した。
「お迎えだ」
見ると一台の黒塗りの高級車が店の前に止まっていた。それを見た彼女の顔から、サッと血の気が引く。
「陣! 連絡したのですか!?」
「だって、お前の伯母さんに怒られんの、俺だし。この前、なんて言われたと思う? 『未成年を勝手に連れ出すのは、犯罪と言われても文句は言えませんよ』だぜ? 俺、お前にパシられてるだけなのに」
「もう! 融通が利かないのだから!」
千里さんは慌てて立ち上がると、私に向かって再び深く一礼した。
「お話、考えていただけますか。今日のところはこれで失礼します」
それだけ言い残し、彼女は店の外へと走り去っていった。
外は暗くてよく見えないが、彼女が車の後部座席へと吸い込まれていくところだけは見えた。