Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
もっぱら私の指定席となっている空席に荷物を降ろし、パソコンを立ち上げた。
もとは総務の女性が座っていたらしいが、今は誰も使っていないそうだ。

「早速で申し訳ないんだけれど、仕事をひとつお願いしたいんだ」

御堂さんは私のパソコンが立ち上がったのを確認すると、ファイルを片手にやってきた。

「やり方は前と同じだ。この伝票を入力して欲しい。ファイルはここにある」

御堂さんは私のすぐ横に屈み込んで、ディスプレイを指し示した。
目の前に彼の顔が近づいてきて、一瞬ドキリとしてしまう。

ダメだよ、真剣に仕事をしている彼にそんな感情を抱くなんて失礼だ。
どぎまぎしながらも必死に自分を落ち着かせて「はい、わかりました」と真面目な振りをしたら、御堂さんはなんの疑いもなく「よろしく」とだけ言い残して去っていった。

名残惜しくうしろ姿を目で追いかけると、ふと怪我を負っている右手が視界に入り、包帯の量が減っていることに気づいた。
大振りなギプスも取れたらしい。包帯の隙間から、彼の素肌が覗いている。

「もうギプスはしなくて大丈夫なんですか?」

私の問いかけに、御堂さんは「ああ」と思い出したように右手を掲げて、ほんの少しだけ動かしてみせてくれた。

「医者も驚いてたよ。治りが早いって」

「よかった……」

医者から安静にと言われていたにも関わらず、仕事でかなり無茶をしていたから、治りが遅いんじゃないかと心配していたんだ。
御堂さん自身も安心したように自身の右手を見つめている。

< 116 / 249 >

この作品をシェア

pagetop