Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
大きな道路に面していないこの道は、日中帯でも人が少ないというのに、夜になればまず誰ともすれ違わない。
街灯も少なく薄暗い。
中小企業のオフィスが多く並んでおり、連休のせいか明かりの灯っていない建物の方が多くて、人の気配すらまばらだ。やけに静かで、いつも以上に不気味な感じがした。

事務所を出て一区画くらい歩いたときだろうか。
うしろからコツ、という足音が一歩分だけ不自然に響いてきて、私は振り向いた。

辺りには誰もいない。

気のせいかと思い、もう一度歩き始めるも、今度こそはっきりと私の歩調に合わせて足音が聞こえてきた。
再び振り向くと、黒いシルエットが電柱の影に身を潜めるところをハッキリと目撃してしまった。その距離、二十メートルほど。

じわりと嫌な予感が押し寄せて来る。
……追いかけられている?

正面に視線を戻し歩き始めると、その背後の足音も同時に歩き始める。
これ以上振り返るのが恐ろしくて、携帯のミラー機能でうしろを確認すると、その影が道路の脇を歩いているのが見えた。
先ほどよりも距離が近くなっているような気がする。

――『もし誰かに付きまとわれたり、不審な人物を見たら必ず教えてくれ』――

御堂さんの忠告がふっと脳裏をよぎった。
狙われているのは御堂さんだけれど、私への危険がゼロではないとも言っていた。

――『しばらく不用意に夜道を歩いたり、危険なことはしないでほしい』――

ホテルでナイフを持った男に襲われたことを思いだして、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。
あのときは御堂さんが守ってくれたけれど、今の私はひとりきり。抵抗なんてなにもできない。
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