Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
正面の御堂さんは、呆然と立ち尽くしている。どうしてこんなことになったのかわからないといった顔だ。

「……陣さんは、私を傷つけるつもりなんて、ありませんでしたよね?」

「なっ……!」

私があまりにも自信満々に言ったものだから、陣さんはたじろいだ。

「もし俺がナイフを放さなかったらどうするつもりだったんだ! 今ごろお前の手、ズタズタになってたぞ!?」

刃を素手で掴み上げるという非常識な行動が許せなかったみたいだ、私の背中に向かって大声で叱りつけてくる。
けれど――

「そんなこと、陣さんはしませんよ」

「なんの根拠があって――」

「さっきの言い争いを聞いていたら、陣さんは御堂さんのことが大好きなんだってわかったから」

「なっ……! どこをどう聞いてたらそうなる!?」

「寂しかったんじゃないんですか? 御堂さんが本音を話してくれないから」

私も同じことを考えていたからよくわかる。
笑顔ばかり取り繕う彼は、全然本当のことを打ち明けてくれないから、置いてきぼりにされたような寂しさが募る。

もちろん、恨みや憎しみもあったのだろう。自信の境遇に対する、コンプレックスも。
けれどそれだけではなくて、根底にあった深い友情がここまでこじれさせる原因になったのだと思う。

きっとそんなこと無自覚だったのだろう。あるいは、言い当てられて驚いたのか。
私を拘束する腕が一瞬緩んだ。彼の胸もとから抜け出して、正面から向き合い頭を下げる。

「――でも、ごめんなさい。どんな理由があっても、私やっぱり、陣さんと一緒にはいけません」

踵を返し御堂さんに駆け寄ろうとする。
けれど、我に返った陣さんは黙って私を見送ってなどくれなかった。
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