Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「待て!」

陣さんの叫び声に振り返ると、私の肩に伸びてくる手が見えた。
その手に捕らえられる直前、もうひとつの手がそれを防いだ。御堂さんだ。

「陣!」

御堂さんが陣さんの腕を捻り上げると、その勢いに弾かれて陣さんの身体が浮かび上がった。

「っぐあっ!」

ドシン、という大きな音を響かせて、陣さんは床に背中を打ち付けた。

強く肺の周囲を叩きつけられて、一瞬息ができなくなったようだ、乾いた咳と呻きを漏らし、ごろりとうつ伏せにのたうった。
よろよろと起き上がろうとしたところを、御堂さんがすかさず馬乗りになって、両腕を掴み上げる。

「痛ぅ!? くそっ――」

「悪い。これ以上華穂に手出しさせるわけにはいかない」

しばらく御堂さんの下でもがいていた陣さんだったが、完全に身動きが封じられたとわかると、観念して大人しくなった。

「……わかった、わかったから離せ」

聞く耳を持たない御堂さんだったが――

「御堂さん」

私が目で訴えると、腑に落ちない顔をしながらも渋々陣さんの背中からどいた。

「……華穂がそう言うなら」

警戒しつつ、掴んでいた手を放し、解放する。

もう陣さんは暴れたりしなかった。
投げ飛ばされた身体がまだ痛むのか、だるそうに上半身を起こし、近くのベッドの上にその身をずるずるとひきずっていった。
< 210 / 249 >

この作品をシェア

pagetop